空手家と柔道家について

元世界王者である畑山隆則は「ボクサーは体が華奢で腕力がないので、喧嘩は強くない」という趣旨のことを言っています。彼自身は空手の世界で言えば「軽量級」に当たる60kg前後の階級で戦っていましたからそう考えるのでしょう(マイク・タイソンならそう言わないでしょうし)。しかし、柔道出身である僕が一番恐れたのがボクシング経験者です。

 

僕自身、中学3年のときいわゆる不良の番長的存在だった生徒から「決闘」を申し込まれ、放課後学校の前の公園で皆が見守る中でやることになったことがありました。僕自身は中学のときは柔道を講道館まで習いに行っていましたが、真面目な生徒だったこともありすごく怖かったことを覚えています。

 

その当日のことです。先制いきなり左目を拳固で殴られ(避けれなかったわけです)目の前が真っ暗になりましたが、その後無意識に相手を掴み、投げそして肩固めをきめ、気づいたら相手がギブアップしてました。

 

高校では柔道部で稽古しながら、空手を習い始めましたがその流派は素手による顔面攻撃がなかったため相変わらずボクサーが怖く感じていました。そしてついに大学生のときにその恐怖心をなくすために入門したのがボクシングジムの「墨東ジム」で、その頃から総合格闘技の大きな大会に出始めたのです。

 

総合格闘技のMMAなど見られるようなグランド技はともかくとして、実際の戦いにおいては掴みはよくあることです(普段人は服を着ているのでなおさらです)。逆にそれがなく終わるとしたらよほど一方が打撃能力に秀でている武術的戦略に長けているか、あるいは他方が(技術的・精神的に)弱い場合でしょう。

 

僕自身は空手家ですが、柔道も多少は身に付いているので(仮に体躯が小さかろうが)柔道家の「腕力」の強さは十分知っています。3段以上の実力を持った相手なら「掴まれたらやられる」と思った方が無難でしょう。

 

前述の畑山の話にも『掴まれてぶん殴られておしまいですよ』とも話していましたが、腕力がなければ確かにそういう面もあるでしょう。

 

しかし一方、柔道家が「飛び道具」に弱いもの事実でしょう。空手・ボクシングの持つ「当て身」技(パンチ・掌底・ひじ・蹴り・頭突きなど)をさばいたり、受けたりする技術を持ち合わせておらず、柔道の技自体が掴んでからの技だからです。

 

ゆえにパンチ・蹴りなどをもらいやすく、十分な「重さ」を持ったそれらの攻撃を目・金的・あごなど急所にもらえば戦意喪失あるいは戦闘不可能なダメージを負いやすいわけです。まして相手がナイフなどの武器を持っていれば(重い当て身技が出せない素人にでも)致命傷をもらいえるわけで、対武器には弱いことはよく指摘されるところです。

 

まぁ普通、小さないさかいでの喧嘩にナイフは出てきませんから(「刺せば監獄(刺されれば地獄)」です)、その意味で腕力のある柔道家が強いことも確かでしょう。路上で投げられれば畳ではなくアスファルトに体を打ち付けられるわけですし、彼らは締め・関節の極め技をも持っていますからね。

 

ただし重い一撃を急所にもらえば、いかにゴツイ体躯を持っていようともそこで終わります(人体とはそういうものです)。

 

MMAの選手のような明らかに普通の人とは違う鍛え抜かれた体であれば、筋力で重いパンチなどを繰り出せますし相手も予想しえますが、沖縄空手の当て身は腕力ではないざっくり言えば体重・重心を使った打ち方をするため、一見普通の体型の人であっても重い攻撃が可能なことは特筆すべきことです。

 

僕の最初の先生は(一見)腹の出たおじさんでした(不思議なことに日本の本物の伝統武術を身に付けた人は国内にいないことが多く、彼もアメリカ在住で外国人相手に道場を持っていました)。

 

結局はどんな格闘技であろうとも、技の鍛錬の度合いあるいは「修羅場」の経験値(気持ちの強さ)が勝負の鍵を握ることになるのでしょう。